2016年=オーディオ×インテリア融合元年?

スマートフォンが普及して、オーディオ・ビジュアル機器もダイニングや寝室などの生活空間にあって当たり前に。MUOのようなデザイン性あふれるコンパクトなサウンドデバイスが登場したほか、KEF Ciシリーズのように音以外は存在感を消すインストール用スピーカーの需要が伸びています。

生活空間を豊かにするためのツールとしてオーディオを考えた場合、機器として露出するものはコントローラー(これも現在はスマートフォンタッチパネルですが、いずれはセンサー?)と、実際に音を空間に伝えるスピーカーだけになるかもしれません。

それを踏まえると、果たしてスピーカーデザインのあるべき姿とはどのように考えられるのでしょうか。

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素材に着目する手法
LINN、B&O、SONY

たとえば、トールボーイスピーカーはリビングに多用されます。でも、空間デザインの観点からは、“広い空間”に置かれるモノとしてはどこか中途半端なサイズ感とデザインの製品が多い、という声が聞かれます。

リビングに置かれる家具は、一般的には木製あるいはグロスの収納やテーブル類に、椅子やソファといったファブリックがメインで、アクセントとしてガラスや石、グリーンが用いられるというイメージかと思います。

それに対応するため、スコットランドのLINNはシリーズ5で上質なファブリックを纏いました。「素材感」による違和感を解決しようという試みです。スピーカー単体というより、空間に配置されることでファブリックの持つ質感がやわらかに馴染み、高級感としっとりとした落ち着きを醸し出していました。2016年3月にイタリアの高級家具ブランドB&B ITALIA Tokyo Showroomで行われた発表会は、建築、インテリア、デザインなど各方面からの来場者で盛況だったといいます。

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また、インテリアとの関係を意識したブランドとしては、Bang & Olufsenがあげられます。フラッグシップのBeoLab 90は、上質なドイツ製ファブリックを使ったトップのサランネットは、あたかもシースルーのシルクハットのよう。光の当たり具合や観る角度によって表情が変わるところが、飽きの来ない普遍的なデザインということなのでしょう。また、高級ファブリックメーカーKvadrat(クヴァドラ)とのコラボによるBeoPlay A6も日本で発売され話題となっています。

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ガラスという素材もシャープなイメージを映し出します。ソニーのLife Space UXは、オーディオビジュアルを単なるモノではなく、いい音と映像が生活空間そのものを豊かに創造するコアであるべきというコンセプトを持ったシリーズです。2016年2月に発売された超短焦点プロジェクターLSPX-P1とグラスサウンドスピーカーLSPX-S1は、上質な家具インテリアブランドであるアルフレックスの東京ショールームで行われました。

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このサイズ感であれば、グラスサウンドスピーカーも空間に馴染みます。LSPX-P1は、スマートフォンと連動して時刻や位置情報を駆使したアプリで外の天気に合わせた窓の景色映像を映し出し、文字通り部屋に「もうひとつの窓」を作ります

フォルムに着目する手法
彫刻アートとの関係を追求するKEF

こうした流れに対し、KEFはとてもユニーク。最近、彫刻的な造形に凝っており、アートやデザインへの傾斜を見せています。2016年4月に開催されたミラノスーパーデザイン・ショーでも、アルミニウムやグラスファイバー、高密度ポリマーといった素材を駆使したハイテクなやり方で、MUONやBladeといった流れるようなフォルムのデザイン哲学についてプレゼンテーションし、好評を博しました。

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こうしたアルミニウムを使った緻密な仕上げは、ハイエンドオーディオだけにとどまらず、ポルシェデザインのヘッドフォンMシリーズや、ブルートゥーススピーカーMUOでも駆使されています。

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このように極力そぎ落とすシルエットを実現するために、筐体にはひじょうに硬性の高い超高分子ポリマーを採用しています

ただ、近未来的な素材を使いながらインテリアに沿うような配慮も。KEFがBladeシリーズやMuoで多用する「Frosted」と称する光沢を抑えた仕上げは、素材感をアクセントとして使いこなしつつ木目やファブリックとも馴染む手法として注目されます。

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「場」に合わせた音楽の姿。
カスタムインストールの重要性

こうしてくると、”オーディオの未来”は、意匠と音質の両面で「オーナーの生活空間に沿うようにパーソナライズする」というカスタムインストールの思想に通ずるところにあるようにおもいます。これは、建築家やインテリアコーディネーターといった空間を司るプロが日常意図している仕事そのものです。オーディオ装置も、個性を映し出すひとつの重要なアイテムであると思い出させてくれます。

最近発表されたSIX社のLyric Speaker(リリック・スピーカー)は好例。歌詞のもつ効果に注目し、文字性を抽出することで音楽を深く味わうことができ、時間と空間を豊かにすることを狙ったそう(株式会社SIXのクリエイティブディレクター、斉藤迅さん)。一方、空間におけるデザインは軽快に。透過型のエンクロージャーは、ユニットの他に心臓部であるPC部、下にはパッシブラジエーターが見えますが、表も裏もスッキリしたデザインです。

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近年のKEFは、音楽がアートであるという本質をスピーカーのフォルムとして表現することを狙っているように思います。お気に入りの空間に美しい絵を掛けるようにスピーカーを置いて欲しい……。

Bladeシリーズは、20世紀を代表するルーマニアの彫刻家、コンスタンティン・ブランクーシの「Bird in the air(空間の鳥)」をモチーフにデザインされたそうです。彼は、「人が感動するのは、個々のパーツではなく、その姿や肉体の煌めきに対してである」と言っており、物質の奥に隠された本質を追求することの重要性を示唆しています。

レイモンド・クックも言っていました。芸術の中で、音楽は最も表現力豊かで直接的であるが、最も壊れやすいと。そして、オーディオ・ビジュアル機器は音楽や映画という芸術作品を再生する装置である以上、芸術的でなければいけないとは、故 松山凌一先生がおっしゃっていたことでした。

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そのフォルム自体よりも、置かれる「場」を意識したデザイン。そこには、オーナーの意思が強く反映されたインスタレーションが重要になるでしょう。

フラッグシップのMUONは、2007年のミラノサローネ期間にレオナルドダビンチ国立科学技術博物館の一室でお披露目されました。床には音に合わせて点滅するLED照明が埋め込まれ、グラマラスでくびれた流線型は官能的に光を映し出しました。

より重要なのはコンセプトで、サウンドの正体を突き詰めて行くと、素粒子の集まりからなる宇宙を考えたとき、無の音を感じたとして「ミュオン」になったそうです。”音を奏でないときも美しいと感じられる意匠”というメッセージがそこには込められています。

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