EXAKT Digital X’over発表会が東京国際フォーラムで開催

英国ブランドKEF×リンのコラボが幕を開ける

英国のHi-Fi オーディオ・ブランドとして確固たる評価を得ながらも、なお絶え間なくチャレンジを重ねてきたKEF とリン。その両者が、鋭い耳を持つオーディオファイルを唸らせる卓越したサウンドを提供すべく緊密に連携することで、スピーカーによる再生はかつてない次元に到達しました。ここでは、2016年7月28日に開催されたEXAKT Digital X'over発表会の模様をご紹介します。

今回のコラボレーションに至る経緯

LINNは、2013年にExaktを発表。しかしそれは、自社のスピーカーをEXAKTアクティブ駆動して実現するツールを越え、他社製のスピーカーにも適用できるソフトウェアのプラットフォーム開発も含むものでした。

理想の音楽再生を追求する他ブランドでも使ってもらいたいと考えたLINNは、同社でスピーカーを手がけるチーフディレクター、フィリップ・バッド氏に相談したところ、すぐさま「それならKEFがいい」との助言を受けたそうです。それは、KEFが点音源とUni-Qにこだわりリニアフェーズを理想に掲げて開発を続けている点で、LINNExaktと理念を同じくするからでした。

それを受け、Exaktのエンジニア、キース・ロバートソン氏はさっそくKEFにExaktを通じたコラボレーションを打診します。こうしたLINNからの呼びかけに対し、BladeシリーズReferenceシリーズといったKEFのフラッグシップモデルを手がける若きエンジニア、ジャック・オークリーブラウンは躊躇なく応えます。

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奥がLINNのキース・ロバートソン氏、手前がKEFのジャック・オークリーブラウン

イングランドとスコットランド。ブランドを越えてこのReference5 EXAKTデジタルフィルターが完成したのですから、理想の音楽再生にむけた考え方において、どこか互いにシンパシーを抱いていたのは間違いないでしょう。

そしてそれは、1974年にLINNが世に問うたスピーカー、アイソバリックにKEFがミッドレンジとウーファーを供給していたことと偶然ではありません。両社とも、「ソースに忠実で自然な音」を目指すという理念において昔も今も一貫していたことを意味するからです。

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LINNの進化の歴史 ロスの除去

ではここで、キース・ロバートソン氏のプレゼンテーションに沿って、LINNExaktに行き着くまでを辿ってみましょう。

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LINN キース・ロバートソン氏

収録過程と再生領域の両方で生じるさまざまな「ロス」をいかになくしていくか……アナログターンテーブルSondek LP12登場以来、LINNがひとつひとつ重ねてきた進歩の過程は、オーディオ市場からは逆説的ともみられるステップを辿りました。それは下記のように赤い矢印をブルーの矢印に替えていくこと、つまり、ソース側からロスをなくしていくことでした。

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LP盤になる過程、および家庭でLPを再生する過程でロスが生じる(赤矢印)
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CDでもマスタリングの過程、さらにMP3の圧縮過程でもロスが起こっていた
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LINNDSとスタジオマスターファイルを自ら提供することで、収録過程におけるロスをなくした

そして最後に残されたのが、スピーカー・ドライブユニット直前までの再生の全工程で「ロス」をなくすこと。今回のExaktboxがそれを果たしたのです。

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ところで、パッシブクロスオーバーを使った通常のスピーカーでは、①クロスオーバーおよび②ドライブユニットにおいて歪みが発生し、音楽情報の損失・欠落(ロス)をもたらします。

また、アナログクロスオーバーを構成するパッシブ素子一つひとつの特性には偏差があり、その集合体であるパッシブクロスオーバーには相応の個体差が存在します。

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一方、デジタルクロスオーバーに「IIRフィルター」と呼ばれるものがあります。IIRフィルターは20年ほどの歴史を持つものの、今までほんの数社が取り組んできたにすぎません。このフィルターを使うと、「振幅(音圧レベル)の歪み」を全くなくすことができます。これは素晴らしい利点です。

しかし、IIRフィルターも残念ながら「位相歪み」をなくすことができません。このことから「理想のアナログクロスオーバー」と表現することができます。

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一方、より高度なデジタルフィルターで「FIRフィルター」と呼ばれるフィルターがあります。これは、すべての周波数での0クロスポイントを一致させ、全帯域のタイミング(位相)を正確に合わせることができます。

EXAKTでは双方を統合して利用し、完璧なクロスオーバーを形成します。

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矩形波といっても、実は無限の波形の集合体なので、プラスからマイナスにゼロクロスするポイントがあります
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出力波形をみてみると、黄がトゥイーター、青がウーファー。ゼロクロスにおいて5ミリsecズレています
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EXAKTクロスオーバーはこれをピタリ合わせます
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しかし、完璧なクロスオーバーが出来上がっても、実際の再生音には依然として歪みがあります。ドライブユニットが歪みを生み出してしまうからです。

ドライブユニットは、固有の振幅歪みがあり、直線的なレスポンスを持つものは存在しません。ドライブユニットに送り込まれた音と、ドライブユニットから出てくる音は違う周波数特性を持っているのです。

また同一ユニットからの音でも、周波数に応じて発せられるタイミングが違うことはあまり知られていません。受け持ち帯域内ですでに位相歪み(タイミングのズレ)があるのです。

音楽において位相の問題は、特に重要です。これが生演奏と今までのオーディオでの再生の違いだったと言っても過言ではありません。例えば、フルートの奏でるA音とオーボエのそれは、基音は全く同じ440Hzであっても私たちはたちどころに音色の違いを聴き分けます。基音は同じであっても同時に発せられる倍音成分が違うからです。もしこの倍音が正しく発せられなかったら、どの楽器の音なのか正確に把握することが困難になってしまします。

EXAKTデジタルフィルターは、ドライブユニットが持っている振幅・位相のズレをあらかじめデジタルフィルターで補正し、ドライブユニットから出てくる音を正確なものにします。

つまり、①全く歪みを生み出さないクロスオーバーと②ドライブユニットが生み出している歪みの補正を、EXAKTデジタルフィルターが行ってくれるのです。

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KEFのエンジニアも納得の効果

プレゼンテーションでは、キース氏のプレゼンテーションを受けて、KEFからみたExaktの効果について、ジャックより解説がありました。

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KEFのエンジニア、ジャック・オークリーブラウン
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KEFではどのドライバーも同じタイミングで働くように設計しています。

しかし、一般的なパッシブクロスオーバーでは、HFは早く、LFは遅れてしまい、薄いブルーに示したオリジナルの信号とはズレが生じてしまいます。

また、スピーカーユニットを通過することで原音になかったリンギングが付加され、オリジナルの波形から形状が変化します。音響物理学の見地からしても、これは不可避的に生じてしまう現象です。

Exaktはこれをデジタルフィルターで改善し、Uni-Qが行う同心円の均一なディスパージョンをさら効果的なものにします。

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Exaktクロスオーバーは、デジタル処理にディレイタイムが生じるが、HFとLFの相対的なタイミングが揃うように処理される。出てくる信号(濃いブルー)は入力信号(薄いブルー)と限りなく同じ波形
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KEFがUni-Q・点音源によって実現しようとしているところとExaktが目指すところは同じ
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Uni-Qなら、リスニングポイントが中心軸をすこし外れても位相乱がすくない
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音源からの位相が揃っているので、室内の反射波も位相があったまま跳ね返り自然な音場を創る

リファレンス機器

●パッシブ再生時
KLIMAX DSM
KLIMAX TWIN

●Exakt再生時
KLIMAX EXAKT DSM(160万円+税)
KLIMAX EXAKTBOX(170万円+税)
KLIMAX TWIN(120万円+税)×3

※いずれもSpace OptimaizationはON

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会場は東京・有楽町にある東京国際フォーラムG棟。インターナショナルオーディオショーでLINN JAPANがプレゼンテーション会場として用いる勝手知ったる部屋
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左下がパッシブ再生時に使ったKLIMAX TWINパワーアンプ。右が、上からKLIMAX Exaktbox for Reference5、Exakt再生時のHF/MF/LFドライブ用KLIMAX TWIN3台
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今回はExaktとつなぎ替えながらのデモができるよう、本来内蔵されているReference5のネットワークは外だしされていた
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イベントでは、一曲毎にExaktとパッシブを手際よくLINNスタッフの皆さんがつなぎ替えてくださった
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Refernce5 Exaktの端子。HF/MF/LF用の独立した入力がある
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非常に鳴らしやすいKEFであれば、もちろんKLIMAXとクォリティは異なるものの、たとえばEXAKTBOX機能プラス8chアンプが内蔵されたMAJIK EXAKTBOX-I(70万円+税)でもじゅうぶんExaktならではの効果を発揮できるでしょう。

参考ブログ
http://sc-legato.jugem.jp/?eid=1485
http://soundcreate.co.jp/linn-2/linn-exakt-box

発表会に参加されたオーディオ販売店の方々のご感想

業界内の異なるブランドが新しい理想を掲げてコラボレーションする発表会というのは、他のジャンルでは盛んに行われているにもかかわらず、日本のオーディオ界ではこれまであまり例がなかったようにおもいます。今回LINN JAPANの皆様のご尽力による取り組みが、複数のブランドを取り扱うオーディオ販売店やユーザーの皆様への新しいご提案となるよう、KEF JAPANとしても努力して参ります。

実際、この発表会に参加された販売店の皆様からは、「違いが分かって、とにかく面白いデモだった」「比較によってLINNスピーカー以外でもExaktの効果が出ることがよく分かった」「ExaktによってKEFがグレードアップした印象だ」「従来のオーディオの延長にない、これから本格的にオーディオに取り組もうというユーザーには絶好のアイテムだ」といった意見が聞かれました。KEFのジャック自身も、Exakt化によって、どのドラムがどこに定位しどのように鳴っているかや、複数のヴォーカルの声質や立ち位置が明瞭になり、収録現場のエアー感が豊かに伝わると評価しました。わけても、低域の位相改善が劇的なのか、キックドラムやダブルベースなどは全く違うと、自ら開発に携わった者としての説得力あるコメントを述べていました。

さらにいえば、従来から一貫して「位相」に拘った開発を続けるLINNとKEFのコラボレーションゆえに、オーディオの基本原理について思い起こさせてくれ、かつ体験させてくれた素晴らしい機会になったと思うのです。たとえば「KEFのExakt化による差は、JBLのExakt化ほどではなかった」という意見はそれを裏付けています。今回のExaktデジタルフィルターをKEFのジャック自身がチューニングしていることもありますが、元来、ExaktとKEFの点音源は馴染みのいい組み合わせなのです。

なお、JBL向けのExaktデジタルフィルターは、国内にユーザーが多いリンジャパンからのリクエストによってLINNで設計、チューニングした製品。とはいえ、リニアフェーズ再生の実現や時間軸制御に徹し、本来そのモデルが持つキャラクターを生かしつつその良さを引き出すという目的に沿ったものになっています。K2 S9900の38cmウーファーのブレークアップも改善してウーファーもヴォーカルもより明瞭になるというもので、その効果は大きかったという声がきかれました。

これに対し、Exaktによって洗練されることで、各ブランド固有のクセや特徴がわかりにくくなるという感想もきかれました。もっとも、そう感じさせるのには理由があり、今回のデモンストレーションはLINNの我田引水にならないよう注意深く行われていたことにもよるのです。たとえばラストの曲では、先にExaktをお聴きいただいてから、ノーマルにしたときの変化を聴いていただくようになっていました。そのおかげで、KEF特有のふわりとした柔らかさ、あるいはJBL特有の中域の張り出しといった各ブランドの特徴を来場者は再認識することになったのです。

いずれにしても、この違いを体感しないのはもったいない。全国の販売店で随時デモンストレーションが行われる機会にはぜひお運びいただき、「フェイズ・パーフェクトサウンド」をお聞き逃しのないよう、乞うご期待です!

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